寛永１８年（１６４１年）鋳銅製

　竜頭は蒲牢（ほろう）。 笠形は低く。乳（ち）は四段四列四間にあり、写 実的な茸状である。
　池の間には四区全面にわたり鐘銘が陰刻されている。
　袈裟襷は正確で 細部は整然としている。撞座は陽鋳と陰刻の複合技法で満開の蓮華紋。
　 下帯の紋様は蓮華唐草紋が紐線にて陽鋳されている。
　全体として、乳の配列と形状。袈裟襷の細部。撞座高やその技法。下帯の紋様。駒爪などに古式の遺風が認められる。
　形姿も優美で鋳技も優れ、鋳肌からも保存状態は、他に類例を見ないほど良好であり、随所に江戸時代初期の特徴を残す貴重な優品である。
　最大の特徴は、天命の 名工、江田姓に関わる梵鐘の中で、現在まで完形品として保存されている唯一の梵鐘である。

鳳仙寺梵鐘鐘銘（原銘）

鳳仙寺梵鐘について

1. 表−１のごとく、現存はもとより記録の上からも、桐生市内最古の梵鐘である。
   　桐生市内の寺社に２７口の梵鐘が存在したが、幕末の海浜防備による「毀鐘鋳砲令」と太平洋戦争時の「金属類特別回収令」によって全国的に梵鐘類が供出され、鋳潰された。
   　これによって桐生市内の梵鐘も壊滅状態となったが鳳仙寺梵鐘は、そのつど「名器である」「歴史的に価値がある」と評価されて供出をまぬがれた。
   　貴重な文化的遺産が兵器化された歴史的事象をものがたる貴重な梵鐘として位置ずけられる。なお、この供出の難をのがれた梵鐘は、鳳仙寺梵鐘の他に、時鐘用として機能した、円満寺梵鐘がある。
   
   
2. 表−２は、群馬県文化財便覧・昭和６２年版及び他の資料より、県内市町村指定重要文化財のうち、梵鐘のみ全数を記述したが、表の如く、鳳仙寺梵鐘は、鋳造年のうえからも３番目に古い梵鐘である。
   　赤城神社梵鐘や妙英寺梵鐘は、保存状態が良いとは言えない、鋳技や形姿、鋳肌の優美さにおいて、格段の差が認められる。
   
   
3. 表−３は、群馬県指定重要文化財のうち、梵鐘のみ全数を記載した。表のごとく、在銘鐘としては、３番目の古さである。
   
   
4. 表−４は、佐野市史資料編及び、他の資料も含めて調査し得た、天命鋳工製梵鐘のうちから、文化財指定品のみ全数を記載した。これによっても鳳仙寺梵鐘は、天命鋳物史上において貴重である。
   
   
5. 鳳仙寺梵鐘の鋳物師（いもじ）、藤原朝臣江田讃岐守安重については、これまで諸書において考究されていない。しかし館林市普済寺梵鐘の江田讃岐守藤原安信とは、最後の一文字のみが異字であり、あきらかに同一人物、あるいは親子か師弟の関係にあった鋳物師と考えられる。このことは、袈裟襷の紐線、下帯の模様、撞座や鐘身部を含めた全体の形姿が酷似しており、鳳仙寺梵鐘の挽型（ひきがた）を利用して、多少のスケールアップを加えて普済寺梵鐘が鋳造されたと考えられる。
   
   
6. 表−５は、佐野市で、梵鐘類を研究する高橋久敬氏の御教示によって作成したが、これによれば、江田姓を名乗る人物によって鋳造された梵鐘は、１３口が確認されている。しかし現存しているのは、鳳仙寺梵鐘と普済寺梵鐘のわずか２口であり、他は供出されている。普済寺梵鐘は、旧法の国重要美術品であったが、破損したため、現在は、館林市の重要文化財に指定されている。したがって天命の鋳物師江田姓に係わる梵鐘で、現在まで完全に保存されている唯一が、鳳仙寺梵鐘であり天命鋳物や鋳物師研究にとって貴重な逸品である。また、確認されている天命鋳物師百余人のなかでも「○○守」を冠することが許さた名工は、数人のみとされている。江田讃岐守は、記録の上では寛永１３年、小山市称念寺から明暦２年、足利市長昌寺まで２０年間であり、鳳仙寺梵鐘の江田讃岐守藤原安重は江田姓の全盛期に鋳造されたことになる。

　以上のとおり、梵鐘の形姿や工芸的優美さ、随所に時代的特徴を有して、江戸初期の作として県内でも貴重な優品であります。ご審議のうえ可能ならば、様式を改めて、群馬県指定重要文化財にご推挙いただけたら幸甚です。　

紐線に、鳳仙寺と普済寺梵鐘に似する特徴があり、これによって、鳳仙寺梵鐘の挽型が再利用されて、普済寺の外型が作られて、兄弟鐘として鋳造された梵鐘が普済寺とられる。また、江田姓鋳物師に係る遺品が他に無いため、推測になる、この紐線による区画が江田姓梵鐘の特徴とも考えられる。